大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成9年(行ケ)87号 判決

主文

特許庁が平成四年審判第一三二二七号事件について平成九年三月一七日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本願発明の要旨)及び同三(審決の理由)については、当事者間に争いがない。

二  原告主張の取消事由1の当否について検討する。

(1)<1> 請求原因五(1)<1>の事実(本件前審決及び本件前判決の内容)は、当事者間に争いがない。

<2>  上記事実によれば、本件前審決は、本願発明は引用例2及び引用例1に基づいて容易に発明することができたものであるから、特許法二九条二項の規定により特許を受けることはできないと認定判断したものであるが、本件前判決は、引用例2及び引用例1から本願発明を当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由で本件前審決を取り消し、本件前判決は確定したものであるから、本件審決をする審判官は、本件前判決の拘束力が及ぶ結果、本件前審決におけると同一の引用例から本願発明をその特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されず、この理は、本件審決の理由中で、本件前審決と異なり引用例1を主たる引用例とする場合であっても同様である。

本件審決は、どの引用例を主たる引用例とするかによって本件前審決と異なる認定判断をしているものであるから、本件前判決の拘束力を受けない旨判断するが、引用例Aと引用例Bの二つの引用例がある場合に、引用例Aを主たる引用例とするか、引用例Bを主たる引用例とするかは、ある発明が引用例A及び引用例Bとの関係で進歩性を有するか否かを判断するに際しての判断方法の問題にすぎないから、本件審決の上記の判断は採用できない。

<3>  そうすると、本願発明が引用例1及び引用例2に基づき容易に発明することができたとの本件審決の認定判断は、本件前審決と引用例を同じくするものであるから、主たる引用例を引用例1とした点で本件前審決と異なるものの、本件前判決の拘束力(行政事件訴訟法三三条一項)に反する違法なものといわざるを得ず、その点の違法が本件審決の結論に影響することは明らかである。

(2) 以上によれば、本件審決の取消しを求める原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がある。

3 よって、原告の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤 博 裁判官 浜崎浩一 裁判官 市川正巳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例